2008年の記録「タイ支社での話」


2008年に書き留めていた記録が出てきたので公開します↓

 


いわゆる霊的なものを信じるか信じないかでいうと信じている。
その存在を見た、と確認できるほどの視覚体験をしたことはないが、通常では有り得ないと思われる不可思議な体験は何度かしているし、信頼のおける人物からそのような体験談を聞いたりしていると、超自然的な何かが存在することを認めたほうが「辻褄の合わないこと」の説明がつくので納得がいく。

霊を信じるといっても死後魂が生前と同じ意識を持っているとは思っていない。ただ、たとえば風は物を倒すために吹いているわけじゃないが、強い風にあたればチャリンコが倒れたりすることもある。霊もそういう影響を我々に及ぼすことはおそらくあるのだろうとは思う。
ビルの谷間は強い風が吹く。とすれば、「出やすい」霊的スポットの存在も俺には納得がいく。ただまあ風は万物に同様にあたるけど霊は必ずしもそうでないので、こちらが気づくか気づかないかの差はあるかと思う。

 

さて、タイの話だ。
ウチの支社がバンコクにあって、去年は俺も三週間ほど出張した。とうとう業績が上がることなく今年の春に休眠させることにして従業員を解雇し事務所を閉じた。
設立当初は街中のオフィスビルの中に事務所を構えていたが、途中から郊外に一戸建ての住宅を借りて、1階をオフィス、2階を日本からの赴任者の住居として使っていた。
俺がバンコクへ行く2ヶ月ほど前から、ウチの会社の社長が渡タイしてそこで現地スタッフを取りまとめていた。それより前は別の役員が現地法人の社長としてずっと赴任していたのだが、日本での業務の都合により帰国することになったので代わる代わる面倒をみるために、こちらから人を派遣していたのだ。
先に行った社長がよこすメールの中に

「ここはちょっと怖いです。夜は2階で日本から持参した焼酎を飲みながらDVDを観て過ごすのですが、妙な物音がしたりするので、電気をつけっ放しにして寝ています。貴殿が来るときはホテルでの宿泊をお勧め致します」

といった内容の文章が混じっていたことがあった。真面目な人だったので外国で一人暮らしだからビビってんじゃねえか?しょうがねえなあ、と俺は上司と笑った。
それからしばらくして俺が渡タイした。
一軒家は食事など逆に不自由だと思ったので俺は最初からホテル暮らしをすることに決めていた。


バンコクといっても郊外だし、俺は酒もやらないので夜の誘惑もなく、そもそも忙しいから現地まで来たわけで夜は遅くまで仕事をした。
晴れている日はいい。実は雨が降るとちょっと厄介だった。すぐそばに車通りの多い道路があるってことで誰かが今も活動している音が聞こえてくるのだが、雨が降ると雨音ですべて消されてしまう。
もともと湿度の高いところだからか、事務所の中にいても南国特有の雨の匂いというか水の匂いが部屋の中に漂ってくる。


霊が出るときは腐った水の匂いがするという話を知っているだろうか。俺は聞いたことがある。
ということで、これはちょっとヤバいなと思って、残業中に雨が降り始めたときは本降りになる前に急いで帰ることにしていた。ところがタイミングが悪くすぐに帰れないこともあったし、降り始めから一気に土砂降り(スコール)ということもタイでは多かった。そういうときは無駄な抵抗はせず、まず戸締りを確認し、オフィススペースから出て、キッチンに退避する。何故かはそのときは分からなかった。とにかくこの部屋(オフィス)に一人でいるのはよくない、という気になったのだった。
流し台にもたれて煙草を何本か吸い、雨が弱まったと思ったら急いで勝手口から外へ出て、メインの道路まで歩き、タクシーを拾ってホテルへ帰った。
そういう夜が何度かあった。

先の社長ではないが、異国でのひとりの夜、それも街ではないとけっこうビビるものですね(苦笑)。

 


タイで現地採用した通訳のコが今は語学留学で日本へ来ている。ウチの会社でバイトをしている。
最近多かった地震のことで、上司が「地震とお化けだけは怖いw」とか言ったからだったか、何故か幽霊の話になって、実はバンコク郊外のあの事務所は「出る」ところだったという告白があった。

「私は何度か白い服の女の人が部屋の中を横切るのを見ました」

「エアコンのスイッチが勝手に入ったり切れたりしてデュアンさん(同僚)と怖い怖いと言っていました」

「引越しのとき(事務所を閉じるとき)に、いつも来ていた大家さんのところのメイドが、実は掃除の途中でガラス戸が勝手に開いたり閉じたりするのが見えたので、そういうときはその部屋からすぐ出たと言っていました」

とか、わんさか出てきた。


当時知らなくてよかった。